このページは北海道大学医学部小児科医である田島先生が2002年10月に小児科診療(診断と治療社)に発表した論文を掲載しています。田島先生に了解を得ています。

性腺疾患

思春期早発症

田島敏弘(北海道医学部小児科)


要旨

思春期早発症は二次性徴が早期に出現し、身体的発育、心理的社会発育に問題が生じることである。その原因は大きく真正と仮性とに分類される。治療は過剰な性ステロイドを暦年齢相当に抑制し、性成熟、新体成熟の進行を抑え、年齢不相応な二次性徴による社会的心理問題、骨成長促進による最終慎重の低下を予防することである。突発性の場合はLHRHアナログによる治療を行うが、アナログ治療は個々の症例ごとの目的、必要量、期間は異なる。また、境界領域の症例には効果はあまりきたいできないこと、とくにGH分泌の正常な低身長への効果は乏しいと考えられ、このような症例に対する使用は慎重に考慮する必要がある。


はじめに

思春期早発症は思春期に見られる二次性徴が早期に出現し、その結果身体的発育、心理的社会発育に問題が生じることである。その原因は広くLHRHの脈動的分泌にはじまり発祥する真正思春期早発症と、性中枢以下の下垂体、性腺、副腎などの原発の異常によりLHRHとは無関係に性腺刺激ホルモン(hCG)、性ホルモンの分泌が増加し発症する仮性思春期早発症とに分類される。また、外因性ホルモン投与や仮性思春期早発症によって慢性の性ホルモンに中枢神経系が曝されることによって、視床下部−下垂体-性腺系が成熟し、その結果真正思春期早発症をきたすことがある。この場合を真正と仮性の混合型思春期早発症という。


正常思春期の発来とその評価

思春期を迎えると性腺などからの性ホルモンの分泌が高まり、身体的変化が出現する。二次性徴の評価法としてTanner※3による段階手評価が広く用いられている。思春期早発症の定義は各人種によって個別化されるべきものと思われる。日本人での正常思春期発来時期は松尾らにより女児では乳房発育10.0歳、恥毛発育11.7歳、初経12.3歳、男児では精巣容量3ml以上10.8歳、恥毛発育12.5歳(SDはすべて1年)と報告されている。※4
厚生省班会議では-3.5SD以上に早い思春期徴候を思春期早発と定義している。(表1)

表1 思春期早発症の定義
女児:乳房発育7歳以下、恥毛発育、腋毛発育、小陰唇発育8歳以下、初経9歳以下
男児:精巣、陰嚢、陰茎の発育9歳以下

思春期早発症の原因分類

思春期早発症の原因分類を表2に示す。成因として女児では70%が特発性が多く、男児では20%が特発性、hCG畜生腫瘍が40〜50%、ほかは脳腫瘍が30%である。※ 真正思春期早発症のなかでは、女児では特発性が多く、男児ではLHRH依存性のものは髄蓋骨内腫瘍、中枢神経系障害がほとんどである。

表2 思春期早発症の成因(文献7)より引用、一部改変)
1、真正思春期早発症(LHRH依存性)
a)特発性早熟
b)髄蓋内腫瘍:視床下部過誤腫、神経膠腫、視床下部星細胞、腫神経線種(von-Recklinhousen症候群)
c)中枢性神経系障害:奇形、くも膜嚢腫、水頭症、髄膜炎、血管障害、外傷、放射線照射、脳性麻痺
d)性染色体異常:47,XXY、48XXXY
2、仮性思春期早発症(LHRH非依存性)
2-1 同性思春期早発

  男子
  1、男子hCG畜生腫瘍:中枢神経系(繊毛上皮腫、胚細胞腫、奇形腫)、肝臓がん、胚芽腫、奇形腫、絨毛がん
  2、アンドロゲン過剰:先天性副腎過形成(21-hydroxylase欠損症、男性化副腎腫瘍、Leydig細胞腫、
    家族性男性性早熟症(Familiesl Male limited Puberty FMPP)、MaCune-Albreight症候群、アンドロゲン製剤投与

  女子
  エストロゲン過剰:畜生腫瘍(副腎、卵巣)、機能性卵巣嚢胞、エストロゲン製剤投与

  男女
  MaCune-Albreight症候群。甲状腺機能低下症

2-2 異性思春期早発
  男子の女性化
    エストロゲン畜生腫瘍、絨毛上皮腫、エストロゲン過剰投与、先天性副腎過形成症(遅発型)

  女子の男性化
    先天性副腎過形成症(21-水酸化酵素欠損症、11-β水酸化酸素欠損症、3-βhydroxysteroid dehydrogenase欠損症)、
    アンドロゲン畜生腫瘍(副腎、卵巣)
  
3、混合型思春期早発症
    先天性副腎過形成症(コントロール不良例)、MaCune-Albreight症候群(後期)、家族性男性性早熟症(FMPP)後期

4、部分的思春期早発症
    早発乳房、早発恥毛、早発月経、女性化乳房

視床下部過誤腫は性差がなく、半数は1歳未満で発症することが多い。過誤腫の場合は精神発達遅延、けいれん、笑い発作が性早熟徴候に先行して認められることがある。また、他の脳腫瘍の場合性早熟が最初の徴候であるよりは、むしろ頭痛、嘔吐、視野障害などの症状が最初であることが多い。これらの髄蓋内占拠病変では、性腺刺激ホルモンの分泌のコントロールの異常によって発症すると考えられる。仮性思春期早発は、視床下部-下垂体-性腺系の成熟を伴わずに性ホルモンの分泌が亢進し、二次性徴が発現する病態である。分泌する性ホルモンがテストロゲンであれば男性化、エストロゲンであれば女性化をひきおこす。女児で仮性思春期早発を認めたときは、機能性卵巣嚢胞やまれに卵巣腫瘍からエストロゲン過剰や甲状腺機能低下症などが考えられる。男児のhGC畜生腫瘍では、hCGのLH作用でテストステロンの増加するため思春期早発が起こる。また、副腎由来のアンドロゲンの過剰によっても仮性思春期早発がおこる。代表的なものは、先天性副腎形成症である。21-水酸化酵素欠損症、11β-水酸化酸素欠損症である。これらの先天性副腎過形症は、女児に副腎由来のアンドロゲンの過剰による異性思春期早発、すなわち男性化をひきおこす。性早熟傾向にcafe-au-lait班を認めた場合は、McCune-Albright症候群を疑う。本症の成因は体細胞レベルでのGsa遺伝子の機能獲得型の突然変異であり、内分泌線、皮膚、骨などのモザイク上にGsa遺伝子変異が分布することにより、多彩な臨床症状が出現する。家族型男性思春期早発症(fammilial male-limited precocious pubertu : FMPP、testotoxicosis)は男児のみが発症する思春期早発症である。家族性(常染色体優位遺伝)に発症することが多い。日本では狐発例もほうこくされてす。LH/hCG受容体の機能獲得型のミスセンス変異であることが矢野らによって明らかにされた。変異受容体はLHとの結合に無関係に持続的にGs蛋白を活性化し、剰のテストステロンを分泌する。先天性副腎過形症のコントロール不良例、McCune-Albright症候群の後期では、中枢神経系が過剰の性ホルモンに長く曝露されるため、視床下部-下垂体-性腺系が成熟し、真正の思春期早発を伴い、混合型へ移行することがある。


診断および検査

主要症状は二次性徴の早発である。性早熟の判定は性成熟徴候の出現時期を目安に行う。二種以上の性早熟が認められれば早発は確実である。一種のみの症状あるいは出現時期を把握できない場合もあり、またせい成熟の速度、身長スパートなどは一様でないため境界領域の場合も損じする。骨年齢の進行、骨成熟は発症直後はっきりしないこともあるので、早急に治療の必要のないものは3〜6ヶ月ごとにフォローしたほうがよい。明らかな性早熟が認められる場合、器質的疾患の有無を検索しなければならない。突発性の診断は、ほかの疾患を完全に除外することが重要である。そのため頭部MRI、胸腹部CT、腹部エコーなどの画像診断が重要である。内分泌的検査での血中基礎値の測定は、LH、FSH、TSH、hCG β subunit、テストステロン、エストラジオール、プロゲステロン、甲状腺ホルモン、IFG-17-hydroxy-progesteron,DHEA-Sなどの測定を行う。現在あるエストラジオール測定系では測定感度が十分に低くなく、女児では必ずしもエストラジオール値は高値を示さないことに注意する。負荷試験としてはLJRHテストを行いLH、FSH分泌が思春期レベルの反応を示すかをチェックする(伊藤らはLH頂値、8mlU/ml、LH頂値/FSH頂値、0.8以上を提唱)。McCune-Albright症候群では骨病変の検索のための骨シンチが有効である。先天性副腎過形成症や副腎腫瘍を疑う場合は、17-hy-droxyprogesteronやステロイド中間代謝物、副腎性アンドロゲンの血中、尿中での測定が診断に重要である。


治療

思春期早発症の治療目的は、過剰な性ステロイド分泌を暦年齢相当に抑制し、性成熟、身体成熟の進行を抑え、年齢不相応な二次性徴の進行による社会的心理問題、骨成長促進による最終身長の低下を予防することである。仮性思春期早発症や脳腫瘍などによる真性思春期早発症と診断した場合は、原疾患に対する治療が優先して行われる。思春期早発で原因疾患の治療によっても思春期早発が改善しない例、特発性思春期早発症の例、副腎過形成症でのコントロール不良例などで性腺抑制療法を考慮する。二次性徴の出現が心理的社会問題(たとえば初経があまりに早い、粗暴な行動、マスターベーションなど)にならず、また最終身長が極端に低くならないと予想されるばあい、基準ぎりぎりの症例は治療の適応とはならない。とくに特発性のもので女児で6〜8歳、男児で8〜10歳ごろ性早熟ちょうこうが出現した低身長児の場合、LHRHアナログの使用は身長に考慮しなければならない。
従来こ、抗アンドロゲン作用と抗ゴナドトロピン作用をもつ酢酸シプロテン(アンドロクール)が用いられてきたが、高用量で肝臓がんの発生との関連が報告されている。そこで現在では、強力かつ持続的なLHRHアナログが治療に用いられることになる。下垂体からのゴナドトロピン分泌には脈動的なLHRHの分泌が必要であり、持続的なLHRH投与では逆にゴナドトロピン分泌は抑制される。下垂体ゴナドトロピン細胞の脱感作によるゴナドトロピンの分泌抑制がその作用機序である。LHRHアナログの投与は4週ごとに1回30μg/kgで投与開始し、効果が不十分な場合は60〜90μG/kgまで増量する。多くの例で思春期レベルに達していたゴナドトロピン、IGF-1、性ステロイドの低下、二次性徴の進行停止、消退などの効果がみられる。血中IGF-1、ゴナドトロピン基礎値や性ステロイドが低下しない場合は、効果不十分の判定は容易であるが、これらのホルモン濃度が低値であるときは、効果判定にはLHRHテストを行う必要がある。十分なLHRHアナログ投与によってLHRHテストによるゴナドトロピンの分泌は完全に抑制される。身長増加率と使用量については逆相関が認められており、必要最低量使用するのが原則である。理論的には経過中の身長の伸びが骨年齢の伸びを上回れば、最終身長はその分改善したと考えられる。しかしこの場合においても、最終身長が改善するか判断することはむずかしく、個々の症例ごとに投与量は検討しなければならない。
治療の中止は年齢的に、また患者の性徴にともなって。二次性徴が出現しても社会的、心理的問題がないと考えられれば中止できる。また最終身長についても正常範囲内で到達できると予想されれば治療を中止できる。しかし最終身長を正確に予測するのは困難であり治療中止の明確な基準はない。あまり長く治療しても成長率の低下が著しい場合は最終身長の改善はむずかしいので、大山らは停止していた骨年齢の進行に変化がみられた時点(女児では骨年齢12歳、男児骨年齢14歳)での中止をすすめている。治療を中止した後の身長の伸びは骨年齢によりことなるが、一般に女児では骨年齢が13歳にた達しているとあまり伸びは期待できない。いずれにしても、個々の症例ごとに治療を長期間続けることの社会的心理的影響を考慮しながら、中止時期を判断することが重要である。
LHRHアナログ療法では大きな副作用は報告されていないが、発疹、硬結を認めることもある。初回投与時に10日前後に性器出血がみられる例がある。これはLHRHアナログの初期の分泌刺激作用であるので、女児ですでに性成熟がTannerV〜W度まで進行している場合には、治療開始後1週間前後で性器出血がおこる可能性について、患者および保護者に説明しておくことが必要である。LHRHアナログによる治療終了後の性腺機能回復はおおむね良好である。女児の場合、治療前に性器出血のあった症例では3〜6ヶ月以内に月経の発来をみる。しかし治療前に性器出血のなかった例では、初経までに1〜2年はかかる。男児で一度発育した精巣がゴナドトロピンの抑制で縮小した場合、あとに再度ゴナドトロピン刺激を受けても、正常な精巣に成熟しない可能性も完全には否定できない。また思春期年齢は骨塩量の獲得に重要な時期である。性腺抑制療法によってこの時期に十分骨塩量を獲得できない可能性も残されている。一般に思春期早発の患者では暦年齢で比較すると骨塩量も増加していることが多く、性腺抑制治療によって骨塩量が減ることは成人と違ってないようである。性腺抑制治療後も性腺機能の回復、妊孕性、骨塩量、については問題ないとする報告が多いが、今後の長期の経過観察が必要である。


症例

いくつかの代表的な症例を呈示し、その病態、治療について概略する。

症例2は真性思春期早発症、症例3は仮性にひきつづく中枢系思春期早発症であり、LHRHアナログの治療が最終身長に有効だと考えられた。しかし、症例4は境界型のためLHRHアナログの治療は無効であった。症例5はGH使用とLHRHアナログを併用した症例であるが、長期の使用を続けたにもかかわらず、身長予後に関しては良好ではなかった。


まとめ

性早熟症の成因、診断について概説した。LHRHアナログによる治療では個々の症例ごとに適応、期間は異なる。さらに境界領域の早発症には効果はあまり期待できないこと、とくにGH分泌の正常な低成長にLHRHアナログを1年くらい用いるのでは、最終身長の効果はきわめて乏しい。より長期3〜4年以上、しかもGH併用療法を行うと理論的には最終身長が改善する可能性があるが、症例に示したように長期にわたり、社会精神的影響、減少する骨塩量などを考慮しなくてはならない。このような点については今後さらなる検討が必要である。


文献

  1. 日比逸郎・編:性の分化と成熟の異常。小児科MOOK59、金原出版、1990
  2. 間脳下垂体機能障害研究調査研究班:平成7年総括研究事業報告書(班長:入江 実)
    中枢性性早熟症(思春期早発症)診断の手引き、1985
  3. Tanner JM:Growth at adolesence 2nd.ed., Blackwell.Oxford,1676-1689,1985
  4. Matuo N:Pubertal Development Of Japanese children.Clim Pediatr Endocrinol 2 (Suppl.1) 1-4,1993
  5. 藤枝謙二:思春期早発症、思春期遅発長。ホルモンと臨床 49:171-177,2001

ブラウザーよりお戻りください

2006/3/3作成開始 3/12更新 3/13 完了


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送